2020.06.25 Thursday
消えた花
かつて花と呼ばれていたそれは、
つぼみと呼ばれる塊りが複数のヒダとともに開き、
様々な色と甘い香りを漂わせ、
景色や人々の暮らしを彩っていた。
けれども
それらの色は景色の調和を乱し、香りは空間を越えて拡散するし
更には、花から飛び散る花粉が、人に感染し害を与えると言われると
人々は我先にと目につく花を刈り取り、
焼き放ち、またある者は茎や根ごと抜き取り駆除し始めた。
景色は瞬く間に一変。
人々の求めていた、調和され、香りのない無害な世界になった。
それによって幸せな暮らしを送れるはずだったが、
ある日、鳥がバタバタと落下し始めた。
それを見ても人は、何が起こっているのかすぐには分からなかった。
ただ恐れ、
ある人は疑心暗鬼になり、
ある人は空に祈った。
人々が、その原因が花がなくなったせいだと知ったのは
世界から花が、一つ残らず消えてしまったあとだった。